いつかきっと、目を覚ますその時までは

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私的2019年アルバムトップ10-[3位]BUMP OF CHICKEN-aurora arc

ここで王者の登場である。来年でデビュー20周年を迎えるBUMP OF CHICKENだ。

昨日の最後に上位三位はアルバムの意義を問いただす作品だと書いた。このアルバムは今までのアルバムの在り方を根本から覆す破壊力を持っている。

まず、ほとんどの曲が既発曲であること。実は新録曲はM5:ジャングルジムの一曲しかない。しかし、アルバムを通した聴いた時に、きちんと”作品”を聴いたという実感を持てること、それが新しい。

BUMPは「Butterflies」以降、立て続けにタイアップを取り、そのたびに配信限定シングルとしてリリースしてきた。まさに現代的な音楽の発表方法である。洋楽では近年、アルバム曲を小出しにシングルとして出すことでリスナーに次々と新曲を届け、シングルが十分に耳になじんだところでアルバムが出る、そうするとリスナーは聴きなじみのある曲ばかりだから当然、アルバムはヒットする、と、こういう方程式のリリースが標準化された。アーティストにとって致命的なのは音源の未発表期間が長くなることなのだ。リスナーからしてみれば沈黙しているようにしか見えない。アーティストは必死にアルバムを作っているのだが。この手法はそういう矛盾を解きほぐすのに一躍買い、アーティストとリスナーとのつながりを密にした。よりSNSで拡散されやすいリリースの仕方だ。しかし、これを実践している邦楽アーティストは今までいなかった。これをはじめてやって、成功してのけたのがBUMPなのだ。

作曲した時期はまったくバラバラだ。「アリア」は2016年8月にリリースされている。また、この三年間、シングルは2018年11月の「話がしたいよ/シリウス/Spica」の一枚しかリリースされていない。ほとんどが配信リリースだったのだ。

こうした異色の制作方法がとられた「aurora arc」だが、ちゃんといつものBUMPのアルバムなのだ。

BUMPは「ギルド」で人間をやめたくなったと赤裸々に歌い、「オンリーロンリーグローリー」で内省的な孤独からの脱却を歌い、「カルマ」でもう一人の自分との和解を歌った。BUMPの歌詞は個人主義が強まりだした00年代のカルチャーを代表するものであり、BUMPがいたからこそ今の10年代カルチャーがあると言える、とても重要なファクターなのだ。

それが、今回はどうだろう。

「記念撮影」

”ねぇ きっと迷子のままでも大丈夫

僕らはどこへでも行けると思う

君は知ってた 僕も気づいてた

終わる魔法の中にいたこと”


HUNGRY DAYS × BUMP OF CHICKEN 「記念撮影」フルバージョン

なんとも祝祭に包まれた歌詞だ。もう自分の殻の中に閉じこもっていた藤原基央はいない。彼は、「メーデー」で「カルマ」で「ray」で、そしてファンのみんなに支えられて、自分を奮い立たせて、自分自身に立ち向かった。そして、普通の、一人の人間としての幸福を手にした。BUMPが尖った歌詞、内省的な歌詞を書くのはもうないのかもしれない。だって、彼はちゃんと救われたんだから。そこにあるのは「話がしたいよ」みたいな普遍的でポップな歌なのだ。

だって、もう「ベイビー アイラブユーだぜ」って言っちゃったんだもん!ついに!藤くんが!アイラブユーって!メンバーもびっくりしたって言ってた。だってあの藤くんが!


ロッテ×BUMP OF CHICKEN ベイビーアイラブユーだぜ フルバージョン

しかし、この曲、「新世界」は文字通りBUMPにとっての新世界を描く曲なのだが、藤原基央は「この曲は朝起きて、君と会えるのはもう今日で最後かもしれない、だから、終わりの歌だから、じゃあ”アイラブユー”って伝えなきゃなって、自然と出てきたワードなんだ」とインタビューで語っていた。この歌詞も藤原の中では今までの”終わり”や”孤絶”を歌ってきたBUMPの世界の延長線上にある、ということだ。

しかし、このアルバムを一番最初に聴いた時、僕は思ってしまった。「ああ、藤くんはもう報われてしまったんだな。救いを求める人じゃなくなったんだな」と少し寂しかった。彼はもう幸福な世界の住人なのだ。孤高の世界の住人ではなくなった。彼は21世紀に残る孤独を詠う詩人だった。しかし、これからは新たな道を歩むんだ、という決意をひしひしと感じる。

「ray」で藤原基央は”大丈夫だ あの痛みは忘れたって消えやしない 大丈夫だ この光の始まりには君がいる”と歌っている。「カルマ」で出てきたもう一人の自分。彼にきちんをお別れをしたのだ。傷跡は残るから、君がいた歴史は消えない。だから、もう自分は救われていいんだ。そういうメッセージを感じる。そして、その先へ彼は踏み出した。だから「アイラブユー」と歌えた。

僕らも、彼の生きざまに共感したように、彼を目印に、灯台にして、幸福な道を選ぼう。自分で自分を不幸にすることはない。僕らは、変われる。いつだって幸福の道を歩み始めることができる。そう、訴えているように聞こえてならない。